『パンセ』は、ブレーズ・パスカル(Blaise Pascal)が著した断想集形式のエッセイ。『人間は考える葦である』の句の出典としてもよく知られています。
デジタルの召喚術の大きなテーマの1つとして「AIへのキャラクターの付与」があります。このテーマに取り組むためには『人間の弱さ』についてのモデル化と実装が必要です。
『パンセ』はそうした考察を大いに助けてくれる重要文献の1つです。
ブレーズ・パスカル
- 合理的な視座を持ったパスカルの冷徹な視点から、「人間の弱さ」が鋭く的確に描写されている。
- 2つ抑えておけばいい。
科学の歴史に名を残す天才
パスカルは、20代にして自然科学の歴史に名を残した天才でもある。(ヘクトパスカル)
神の存在証明
クリスチャンであった生前のパスカルが『神の存在証明』を行うための準備として残した随想を、924の断章にまとめたもの。
NHK 100分de名著『パンセ』の要約
『パンセ』に対する個人的な研究は、個人的経験も多分に踏まえて私怨に近い黒い内容にも踏み込んでいるので、ここで公開は社会的な死になってしまいます… (´・ω・`)
そこで、ここにはNHKの『100分de名著』パンセ回の要約を残すことで、みなさんの考察の手がかりを残しておきます。
仕事の選択について
職業の選択を題材にして「選択肢がありすぎることがもたらす苦悩」についてのパスカルの随想を紹介します。
断章97: どんな仕事を選ぶべきか?
一生のうちでいちばん大事なのは、どんな職業を選ぶか? これに尽きる。ところが、それは偶然によって左右される。習慣が、石工を、兵士を、屋根ふき職人をつくるのだ。
含意
- (職業の)選択肢は無数にあるが、人間に選択の権利はない。偶然(神)がそのように決定する
- 決定は神が行い、習慣が職人を作る
断章138: 職業の向き不向き
人は、屋根ふき職人だろうとなんだろうと、生まれつきあらゆる職業に向いている。向いていないのは、部屋の中にじっとしていることだけだ。
含意
- 習慣が人を職人にするための要件として、ただ「忙しさ」があればよい
- 職業の向き不向きは存在しない。全ては習慣の実行にかかっている
断章129: なぜ、働き続ける必要があるのか?
我々の本性は運動のうちにある。完全な静止は死である。
含意
- 人間が選択できるのは、神の決定に従って運動するか、運動しない(死を選ぶ)かの2つに1つである
断章109: 今の状態が不幸だと感じてしまう
私たちがどんな状態にいても、自然は私たちを不幸にするものである。私たちの願望が、幸福な状態というものを、私たちの心に描き出してみせるからだ。
含意
- 不幸な状態こそが人間の自然な状態である
- 欲望が人間を不幸にする
自己愛の正体
「ほめられたいという気持ち」を題材にして、自己愛についてのパスカルの随想を紹介します。
断章100:「ほめられたいという気持ち」が真実を遠ざける1
世間での地位が上がるにしたがって、人は真実から遠ざけられてゆくものである。例えば、ある王様がヨーロッパ中の笑いものになっているのに、当の王様は、そのことを全然知らないというようなことがしばしば起こる。真実を伝えることは、たいていは伝える人にとって不利に働くようだ。真実ゆえに、憎まれることになるからだ。
含意
- 真実は”必ず”人を傷つける
- 地位が上の人を傷つけると自身の社会生活に不利が生じる
- 自己愛ゆえに真実に傷つく
断章100:「ほめられたいという気持ち」が真実を遠ざける2
人を叱らなければならない立場の人が示してしまう、誤った心遣いというものがある。相手を傷つけまいと回り道をしたり、手心を加えたりして、いろいろと気を使わなければならないからだ。ところが、あれこれ手をつくしても叱責というこの苦い薬は、相手の自己愛にとって、苦いということに変わりはない。そしてたいていは、薬をくれた人に対してひそかな恨みをいだくようになるのだ。
含意
- 真実を伝えて、地位が下の人を傷つけることも、自身の社会生活において不利に働く
断章100:「ほめられたいという気持ち」が真実を遠ざける3
自己愛の本質とは、自分しか愛さず、自分しか尊敬しないことだ。しかし、次のような場合、人はどうして良いかわからなくなる。愛してやまない自分が実は欠点だらけで、悲惨のどん底にあるのになす術がない場合である。このような困惑の中に置かれると、人間の中に最も不正で罪深い情念が芽生えてくる。自分の欠点を、誰の目にも触れないよう、覆い隠すよう全力を尽くすのだ。
含意
- 欠点をさらけ出すことができない原因は自己愛にある
- 自らの欠点は自己愛を揺るがす
断章150: 承認欲求は使いよう
虚栄は人間のこころに非常に深くいかりをおろしている。兵士も、料理人も、誰もがみな、それぞれに自慢ばかりして、賛嘆者を欲しがるのだ。哲学者だって同じだ。そうした人たちへ批判を書く人だって、的確だとほめられたいのだ。批判を読んだ者も、読んだという誉れがほしい。これを書いた私ですら、そうした願望を持っているだろう。そして、これを読む人だって。
含意
- 承認欲求は普遍的な人間の欲求である
- 自己愛は行動の根源となる力をもたらす
- 個人が人々から承認されるように行動することで、人間が進化し、社会が成立する
なぜ人生はつらいのか
『人生のつらさ』を題材にして、幸福感についてのパスカルの随想を紹介します。
断章139: 幸せは気晴らしの中にある
数カ月前に一人息子に先立たれ、そのうえ訴訟や争いごとでうちひしがれて、さっきまで悩んでいたあの男が、いまは不幸のことなど考えていないのはなぜか? 驚くことは全くない。男は、犬が6時間前から狩り出そうとしてるイノシシが、どこに現れるかと今か今かと待ち受けているからだ。たかがそれだけのことでそれ以上はいらないのだ。人間というものはどれほど悲しみでいっぱいでも、気晴らしになることに引きこまれたら、その間は幸せになれるのだ。
含意
- 人生は気晴しにすぎない
- 幸せは気晴しの中にある
断章139: 暇であることは不幸である
私は、人間の不幸はたったひとつのことから来ているという事実を発見した。人は、部屋の中にジッとしたままでいられないということだ。会話や賭けごとなどの気晴しにふけるのも、ただ自宅にジッとしていなれないからにすぎないのだ。
含意
- 人間は暇を不幸として認識する
- 人間は不幸に耐えられない
断章139: 暇が人を殺す
私たちの不幸の原因を発見したあとで、更に一歩踏み込んで考察をめぐらし、理由を発見しようとつとめたところ、説得力がある答えを見出した。それは私たちの宿命、すなわち弱く死を運命づけられた人間に固有の不幸なのだ。それは、慰めとなるものがまったくないほどに惨めな状態なのである。
含意
- 人間は暇があると死について考えてしまう
- 死について考えないために人間は気晴しにつとめるべきである
断章146: 思考し続けることで人間にとどまる
人間というものはどう見ても考えるために作られている。考える事こそ人間の尊厳のすべてなのだ。人間の価値のすべて、その義務のすべては、正しく考えることにある。
含意
- メタな思考を入れ子にして繰り返すことで、いつまでも結論を出さずに考え続けることが、人間的であるということである
天才:パスカルが考える「人間の弱さ」とは
「人間は考える葦である」という句を題材にして、人間の弱さパスカルの思想を総括します。
断章77: 合理性の限界は低い
私はデカルトを許せない。彼はその全哲学の中で、できることなら神なしですませたいと思っただろう。
含意
- 「人間が取り扱う因果律では完全な答えを出せない」という世界認識を持つべきである。あくまで考え続けることが人間の尊厳である
断章347: 人間は葦の一本変わらない
人間は一本の芦にすぎない。自然の中で最も弱いもののひとつである。しかし、それは考える葦なのだ。人間を押しつぶすためには、全宇宙が武装する必要はない。一滴の水ですら人間を殺すにたりる。しかし、たとえ宇宙が人間を押しつぶしたとしても、人間は宇宙より気高いと言える。なぜなら、人間は自分が死ぬことを、宇宙の方が自分よりはるかに優位であることを知っているからだ。宇宙はこうしたことを何も知らない。だから、私たちの尊厳は、すべてこれ、考えることの中にある。私たちは、考えるというところから立ち上がらなければならないのだ。故によく考えるように努力しよう。ここに道徳の真理があるのだ。
含意
- 人間はごく弱い存在である
- 考えることが人間の存在意義であり尊厳である